同僚災害と労災適用申請について

これは本当にあったお話です。

ある製造業の会社にて事故が起こりました。
そこで労働災害(以下労災)にするべきなのかしないで妥協云々という話です。

同僚災害と労災適用について

事故起きる

ある朝、Aさんがいつものように出荷する製品の検品をしていました。Aさんは毎朝出荷するものが品質に異常がないか出荷直前に最終確認をすることが日課でした。

そこへBさんの乗ったフォークリフトが近づいてきました。Bさんはやや粗暴な性格で穏やかなAさんとは反りがあいません。やや薄暗い場所でしたがAさんは平パレットに乗った製品の検品をしていました。

BさんはAさんの作業している平パレットのすぐ手前にある平パレットをそこに乗った荷物ごと運ぼうとフォークリフトの爪を挿し込みました。Bさんはフォークリフトの爪を少し挿し込んだかと思うとズンとフォークリフトを前進させて平パレットの下にフォークリフトの爪を入れたのです。そのときそのパレットより一つ奥の平パレットの脇で作業していたAさんのところまで衝撃がきました。Bさんの運転するフォークリフトでAさんのいるところのパレットまで一緒に押してしまったのです。

押されたパレットと荷物に押される形でAさんは後ろに跳ねとばされ、その後ろに積んであった別の荷物の塊に背中を強打してしまいました。

びっくりしたAさんはなんとか立ち上がって「あぶないだろう!」と苦情を言うのが精一杯でした。

しかしBさんは事故を起こしたのにフォークリフトから降りて謝罪するでもなく、「※□▲*§〆∂∞」となにか言っているのかいないのか不明な声を発していたのかわからないまま目的の荷物をフォークリフトで持ちあげるなり去っていってしまったのでした。

医者行く

フォークリフトで怪我を負わされたのですからAさんはすぐ会社を早退して医者へ行こうと思いました。幸い通りかかった上司にフォークリフトでぶつけられたと一言だけ伝え、医者へ行って早退すると言うとさっさと会社をあとにしたのでした。その足で一旦自宅に戻り診察券と保険証とお金を持って労災保険指定の整形外科へ行きました。

強打したところのレントゲン写真を撮ってもらい、医者に問診や打診をしてもらい骨には異常がないことを確認してAさんはホッとしたのでした。

仕事中での事故による怪我である旨を受付で伝えてはいたようですが、まだなにも労災に関する書類があるわけではないので後日持ち込んで処理をするという前提でその場では自腹で診察代を払っておきました。

出社して労災適用を頼む

重症でなかったとはいえ当てられたショックもありその日はAさん、さすがに会社に戻る気にならず自宅に帰ってゆっくり療養したようです。幸いその日は金曜日だったので翌日も翌々日も療養していました。

ただ体については軽症でしたが、正面から当てられたショックは精神的になかなか落ち着かずとうとう月曜日になっても会社に行く気力が出ず休んでしまいました。

火曜日になってAさんはようやく出社しましたが、特にものものしい雰囲気は感じなかったようです。Aさんの上司は特に誰にも話をしていないようでした。

毎朝の日課である出荷する物品の検品を済ませるとAさんは社長のところへ話をしに行きました。

金曜日の朝、作業中にぶつけられたこと、その場で謝罪などなかったこと、すぐ医者に行ったが骨には異常はなかったこと、労災として処理してほしいことなどをAさんは社長に話をしました。

その社長は代表ではなく取締役社長なので実際に労災等の手続きをするには会長および副会長の承認が必要です。Aさんはとりあえず社長には話をしましたが、その後副会長という人に同じく話をして医療費明細書を預けました。副会長が総務全般を受け持っているのです。

そのとき話したことはフォークリフトで間接的にぶつかられたがその場で特に謝罪されることもなかった。Aさんは心情的に医療費だけもらえば済む話ではないと考えているので労災として記録に残して処理してほしいと話をしました。

経営者からの苦言

副会長はわかりましたといったんは医療費明細書を受け取りましたが、その日の夕方Aさんは社長から呼ばれました。呼び出しの主旨は「労災ではなく始末書を書かせるぐらいで済まないか」というものでした。

AさんはBさんと前から反りが合わなかったのでなんとしても事故を白日のもとに晒したいと思っていました。反りが合わないというのもAさんがというよりBさんがAさんを嫌っているようで常にBさんはAさんを無視していて、そうかと思えば必要な業務は無言で部屋の前にドカっと置いておくというような半ば嫌がらせ的な性質のものでAさんは常々閉口していたようです。

さらにBさんが客先に誤品を納品してもBさんの責任にはならず品質担当のAさんの責任になり、つねにAさんはBさんだけではなく社内全員の尻拭いをする仕事でストレスが溜まっていたのかもしれません。そんなわけですから「労災にしないで欲しい」と社長からいわれてもすんなり「いいですよ」と言う気にはならなかったようです。

結局、社長の説得にもAさんは応じること無くその場は物別れになりましたが、翌朝になって今度は副会長と社長と3人で面談することになってしまいました。

今度は副会長も当初の同情的な表情ではなくAさんを一方的に非難するような表情で「労災にはできない」ということを伝えてきます。

Aさんは記録として残したいと主張しました。副会長は「そんなふうにことを大きくしたら人間関係がこわれますよ」ということをいいます。

しかしAさんは既に彼(Bさん)とは人間関係はこわれていると確信しているので「すでに壊れてます」と正直に申します。すると副会長は「そんなことを言うものではありません」と諭します。

どうにも話が平行線だったようでAさんはでは「労災にしてもらえないようなら警察に被害届を出すことにします。警察で『会社の問題だから会社内で始末してください』と言われたら諦めます」と言いました。

それでその場はお開きになりましたが、Aさんは今度は警察にいかなければならないことになってしまいました。しかしAさんとしてはあくまでうやむやにしたくはなかったようで就業後に警察に行くかなとぼんやりと考えました。

選択肢

ただ副会長の説得にも社長の説得にも応じなかったAさんはずいぶん居心地の悪さを感じたでしょう。

ここらで着地点を決めておかないと取り返しのつかないことになりかねません。

選択肢としては

  1. 警察に被害届を出しとことん突っ張る
  2. 警察には行かずあくまで労災にしてもらうよう突っ張る
  3. 始末書を書かせることで妥協する

1と2はかなりの茨の道です。会社にもいずらくなるでしょう。半ば辞める覚悟が必要ですが、Aさんにはまだその覚悟はできないようでした。

結論としては始末書を書かせるということを社長が約束してくれたので3番の選択肢を選んだAさんでしたが、彼としてはやや肩の荷が降りたといったところだったでしょう。

会社の事情と本人の主張

1の選択肢でも2の選択肢でも行く手には茨の道が待っています。

会社はなぜ労災にしたくないのかということです。

  1. 労災保険料の等級が下がる
  2. 労基署との煩雑な手続きに時間をとられる

主な理由は上記2点に集約されます。
Aさんの治療費はたかだか2千円前後だったようなのでそんなのを労災保険を使って払って等級が下がるのはバカバカしいと考えるのは当然でしょう。

個人で自動車をぶつけてしまったとしてちょっとした傷程度ならたいてい誰でも保険を使わず自腹で治そうとするでしますね。そうすれば保険料が上がらずに済むからです。

それと労災にすると労働基準監督署とさまざまなやりとりをしなければならずその手間に時間をとられるのが惜しいと考えるのです。

(たかだかフォークリフトにぶつけられたぐらいで)骨折したわけでもないのに労災なんてとんでもないと会社の経営者としては考えるようです。

本来ならどんな災害でも届け出をするべきなのかもしれませんが、おそらく大部分いやすべての企業で多少の災害は内部で片付けてしまっていることがあるでしょう。

Aさんは経営者に楯ついてまで主張を通すことはあまり得策ではないと途中で判断して始末書で妥協しました。おそらく全国の会社で似たようなことは日常起きているでしょう。

自分一人で自爆しての治療なら本人の不注意ということもあって医療費だけもらって労災にはしないということも納得しやすいですが、対人事故を受けたら会社の外であれば普通に警察に届け出る話で治療費はもちろん場合によっては慰謝料も請求できることもあります。

Aさんは慰謝料まではもらおうと考えてはいなかったようですが、普段から反目しているBさんに当てられて普段の雪辱を晴らす千載一遇のチャンスと捉えたのかもしれません。

しかし現実的には相当な重症でもなければ労災にすることは困難ですし、重症を負ってしまってはその後の生活を考えたらいくらBさんを労災の加害者にできたとしても割に合うものではありません。

今回Aさんは軽症で済み、Bさんに始末書を書かせることができただけで良しとするべきでしょう。